『その河をこえて、5月』再説

先日、平田オリザの『その河をこえて、5月』について書いたところ、友人の小林明人さんから「今までの平田の中では一番良かったのではないか」とのご意見を頂いた。
確かに、今までの平田の「静かな演劇」が、ほとんど芝居になっていなかったのに比べれば、いろいろ不満はあるが、今回のはきちんとした劇になっていた。
しかし、「それは平田の能力というよりは、韓国の二人の作・演出家の力である」ということも一致した。
また、加藤茶に似た主演の男優や、夏川静枝のようなおばあさん女優の上手さにも大きく助けられていた。
日本の三田和代以下の役者との力量の差を見せていた。
日本の演劇のレベルの低さを認識させる上でも、国際交流は大変意義がある。

日本の文化・芸術の中で、国際的に見てレベルが低いものの一つが演劇で、これは演劇が実物を持って来ないと見られないという特性によっている。
つまり、日本の観客は他の国の演劇を普通は見られないのだから、日本のだけを見てこの程度と思ってしまう。その点、常に世界の最新ものがすぐに流入してしまう映画や音楽は、世界中のものと競争しなければならず、絶えず進歩が起きる可能性がある。だが、演劇は海外との競争がないので、きわめて停滞した状況になりやすいのである。
芸術・文化の振興にとって重要なのは、平田オリザ先生が言うような作者たちを甘やかす公的援助ではなく、世界との競争を視野に入れた革新であることは言うまでもない。

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