女優の本能


中山千夏の本『蝶々にエノケン』はとても面白いが、中で彼女の演技のことについて、非常に意外なことが書かれている。
それは、テレビでの中山千夏の演技は、いつもどこか醒めていて、集中していないように見えた。
その集大成は、ドキュメンタリー・ドラマと言われた朝日放送の『お荷物小荷物』である。
だが、あの本の中では、千夏は、宮城まり子と共演したとき、いつの間にか舞台で自分が宮城まり子の前に出てしまい、そのことをまり子からよく注意されたと書いてある。
そのことは、彼女の別の本で、菊田一夫作・演出のヒット作『がめつい奴』で三益愛子と共演した時も、千夏が無意識に舞台の前に出てしまい、その度に三益愛子から、手で引っ張られたと書いていた。
そのように舞台での中山千夏の演技は、テレビとは逆に「熱演型」で、いつの間にか舞台の前面に出てしまうようなものだったようだ。
テレビと舞台では、演技を使い分けていたのかどうかは、書かれていないのでよく分からないが、多分本能的に演技し分けていたのではないかと思う。

舞台では、主演女優の前に出ることはいけないこととして禁止事項であるようだ。
私も、昔知っていた無名の女優が、ある芝居で吉田日出子と共演したとき、その無名女優が、意外にも目立つ女性だったので、稽古中に演出家から下ろされたそうだ。
勿論、吉田日出子のご意見だったことは言うまでもない。
自分よりも目立つ女優が同じ舞台に立つことは、吉田日出子クラスの女優にとっては決して許せないことなのである。
それくらいでないと、舞台の主演女優にはなれないということだろう。

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コメント

  1. 弓子 より:

    森光子の本の中にも ありましたが
    三益愛子から 足で線をなぞり
    この線より前に出ないこと。とか
    自分より、顔を白く塗らないことなど
    注意されたそうです。

    川口松太郎氏は、沢山の女性がいたそうで
    勝手な想像ですが、鬱屈したものがあって
    親切にする余裕に欠けてたのでしょうか。

    お子さん達も、何人か早世されてますよね。