岩橋邦枝、死去

小説家の岩橋邦枝が死んだ。この人が書き、日活で映画化された『逆光線』について、去年の2月にフィルムセンターで上映された時、私は次のように書いた。

映画『逆光線』は、女性太陽族小説と言われた岩橋邦枝の原作を北原三枝主演で、『太陽の季節』と同じ古川卓己が監督したもの。
女子大生の北原は、寮生活で、子供会のメンバーでもあり、そこのリーダーの安井昌二と恋仲でもある。
子供会とはセツルメントで、貧困地区の子供に勉強を教えたり、遊んだりしているが、早稲田にも「中野セツル」などがあり、民青の拠点だった。
この映画は、原作を反映して、歌声、フォークダンス等が頻繁に出てくるのが不快だが、当時の流行りであり、時代の変遷を感じざるを得ない。
寮には、様々な女子大生がいて、話の中心は渡辺美佐子で、彼女には美青年の恋人青山恭二がいたが、彼が北原に手を出すと、怒り狂う。
多分、渡辺はブスな女性で、北原に青山を取られそうに思った故なのだろうが、青山恭二が大して魅力的に見えないので、これは変だった
北原は、さらに家庭教師の家の父親の二本柳寛の知的で裕福な生活への憧れから、すぐに出来てしまう。
ここでも北原は、妻の高野由美とも三角関係になってしまうのである。
北原三枝は、太陽族というよりも奔放で、今の言葉で言えば「体育会的」な女性である。
もちろん、その階層は違うが、増村保造が『でんきくらげ』や『しびれくらげ』等で描いた渥美マリのような女性であり、これは古川卓己がいた大映的である。
つまり、自分の肉体で何にでも挑戦していこうとする。
この作品で安井昌二の最高のセリフがあった。
「人間的向上を目指す子供会に娼婦がいるわけにはいかない!」
場内大爆笑だった。
最後、上高地で安井章二や二本柳寛とも別れた北原三枝は、水着になって大正池に向かう。
夏とはいえあの冷たい湖で泳げるのだろうか、心配になった。
途中でもプールで泳ぐ北原のシーンがあったが、遠景は吹き替えであり、彼女は水泳はそれほど上手ではないようだ。

まあ、映画としては普通の出来であり、それから推測すると、原作の小説も石原慎太郎の『太陽の季節』のようなセンセーショナルなものではないようだ。岩橋さんは、大学を出て就職し、結婚後は書かなくなっていたが、その後伝記小説を書かれていたとのこと。
2004年に、『逆光線』を書いた当時のことを新聞に書かれていて、それによれば、映画化の原作量は10万円だったそうだが、当時の貨幣価値では、大変なものだろう。
時代に名を遺した女性のご冥福をお祈りするが、元祖太陽男・石原慎太郎がご健在で、今も政界を撹乱しているのは喜ぶべきことなのだろうか。

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