『近松物語』

溝口健二の代表作の一つ。この映画には、特別な思い出がある。
実は、この映画のほぼ公開直後、小学生のとき大田区民会館の無料映画会で見ていた。

と気づいたのは、30代になり、今はない銀座の並木座で見ていたときで、最後の長谷川一夫と香川京子が裸馬に乗せられ、京の大路を行くところで、「あの区民会館で見た映画は、これだったのだ!」と分かった。

他の記憶は全くなく、随分暗い映画としか憶えていなかったのだが、ラスト・シーンだけは鮮明に憶えていた。

この『近松物語』は、監督、役者、脚本、カメラ、音楽、美術がすべて揃った、日本映画史上の最高傑作の一つである。

何しろ、出てくる人間のすべてが、皆エゴイズムの塊であるところがすごい。
進藤英太郎、小沢栄太郎、田中春夫、石黒達也、十朱久雄、浪花千枝子、そして長谷川と香川、全員が自分のことしか考えていない。
他人のことを思いやるのは、父親の菅井一郎くらいだろう。

「王者大映のみがなしうる文芸映画の傑作!」とは、昨日の『雨月物語』の予告編の文句だが、これも本当に日本映画の達成の頂の一つである。

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