『狼の王子』

原作石原慎太郎、脚本田村孟・森川英太郎、監督舛田利雄、撮影間宮義雄、音楽伊部晴美。主演高橋英樹、浅丘ルリ子。プロ中のプロの映画である。
北九州・若松の荷役作業をやっている組の組長の息子の物語。父親・石山健二郎が殺され、犯人とその指揮者の組長・田中明夫を裁判所で射殺して刑務所に入る。新人・藤竜也もいる。
刑期を満了するが、地元の事情から高橋は東京の組に行き、そこで1960年の安保条約反対運動への殴みを目撃し、その中で左翼新聞記者・浅丘と知り合い、同棲する。浅丘が進歩派とは笑ってしまうが、台詞が浮かないところが浅丘のすごいところだ。笛木とは違う。

最後、きちんと結婚しようと決意したとき、若松で子分の加藤嘉が殺され、高橋は単身相手に殴りこんで行く。
どこまでが慎太郎の原作で、どこからが田村らの脚本か不明だが、当時の安保後の「泰平ムード」への苛立ちをよく描いている。
田村らは、後に前田満州夫監督の『人間に賭けるな』も書いているし、裕次郎の『赤いハンカチ』もタイトルにはないが、実際は水の江滝子から依頼され、田村が書き直したのだそうだ。道理で裕次郎がひどく理屈っぽい。

この辺の感じは、蔵原惟善・山田信夫、裕次郎・ルリ子の傑作群『銀座の恋の物語』『憎いあンちくしょう』『何か面白いことないか』につながっている。
傑作は孤立してはできないのだ。その集団の持っている力の上でできる。だから、笹倉の『新・雪国』のような単独作品が傑作になることは本来きわめて難しいのである。

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