富永昌敬の愚作『パンドラの匣』は、実は昭和22年に大映で『看護婦の日記』として映画化されていた。日本映画専門チャンネルの太宰治特集で、放映されて録画してあったのを見る。
監督は吉村廉、主役の大学生・ひばりは小林圭樹、彼が憧れる看護婦竹さんは折原啓子、若い看護婦マー坊は関千恵子、小林が入院の健康道場と称するサナトリウムの場長は、見明凡太郎とすべて大映の役者。小林も戦中、戦後は大映の若手俳優だった。
その他、実態を隠している有名詩人の大月が徳川夢声、かっぽれと呼ばれる中年おじさんが杉狂児、と結構豪華な配役である。
この小説は、河北新報連載の新聞小説で、かなり長く、ユーモアの中に戦中、戦後の社会、時代への太宰の風刺、批判があるのだが、劇としては大きなドラマはなく、映画としては結構難しい。
結局、「グランド・ホテル」形式にするしかなく、スター中心で作っている吉村は正しい。
特に、中盤で主題歌を歌っている奈良光枝を登場人物の姉で出し歌も歌わせている。
この辺が、まさに娯楽映画としてのサービスであり、その発想のない富永映画は、どうやっても救いようがないのである。
もう一度、大学で映画を学び直して来る必要がある。