『英国伝承歌の世界』

朝日カルチャーセンター横浜で、音楽評論家山岸伸一さんの講座『英国伝承歌の世界 フォークソングに秘められた物語』が行われた。
18世紀のイギリスの産業革命の中で、農村から都市に民衆が大量に移動した結果、地方で伝承されて来た歌がBALLAD等として成立したのだそうだ。日本で言えば、1950年代の都市への若者の移動が、後に1960年代には三橋美智也らの望郷的歌謡曲、さらに1970年代の「演歌」を作り出したのも同じと言えるだろう。

かの名曲の『スカボロー・フェア』の真実。 
『竹取物語』のような謎かけ歌ではないか、との説と共に、ポール・サイモンのではなく、マーティン・カーシーの元の曲が紹介された。
ポール・サイモンは、イギリスのロック・パブでカーシーから「スカボロー・フェア」を聞き、それをアメリカに帰って自分のレコードにした。
それもかなり問題だが、一番の問題は『スカボロー・フェア』を自分の名で登録したことである。
もちろん、民謡や伝承歌に当然にも著作権はなく、本来は詠み人知らずである。
『スカボロー・フェア』の、パースリー、セイジ、ローズマリー、アンド・タイムにも様々な解釈があるそうだ。
だが、私には、この部分は、実際にイングランドのスカボロー市でのフェア(市場)で行われた、この香料の物売り歌、『南京豆売り』のようなものではないか、と思えた。ただの素人解釈にすぎないが。

フェアーポート・コンベンションがロックとして発表した『タム・リン』は、日本の絵本にもなっている妖精の物語。王女マーガレットが、お城を出て、森で妖精の騎士タム・リンに出会うのは、明らかに「貴種流離譚」のように思えた。
この手の話は、日本でも『遠山金四郎』など多数でもあるが、どこの国にもあるものなのだろう。

一番すごかったのは、ブロードサイド・バラッドの代表曲、『マリア・マーティン殺人事件』で、実際の殺人犯ウイリアム・コーダーは、田舎で年上女マリアと恋仲になり、孕ませ殺して納屋の床に埋めてしまう。そして、ロンドン出て、新妻と結婚するが、マリアの死体が現れて逮捕される。
それを歌ったブロードサイ・バラッドだが、実際の公開処刑では、8,000人の見物人が集まったのだそうだ。
まるで、日本のテレビの「ワイド・ショー」だが、当時のイギリスでは、バラッドが事件や事故の報道伝達機能も果たしていたのである。
昨年、押尾学の事件のときのテレビの大騒ぎ、「公開処刑」を想起させた。
民衆の欲望はいつも、またどこの国も大して変わらないものなのだろう。
用があったので、最後まで聞けなかったが、イギリスのトラッドの多様性を教えられた。
山岸伸一さんの、高校・大学時代からの、イギリスのトラッドへの長年の研究と強い愛着がうかがわれる中身の大変濃い講座だった。

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