あるところで『オー、ゴッド』は面白いよ、と言われたので、見る。1977年のアメリカ映画、さえないスーパーの主任ジョン・デンバーのところに、ある日メッセージが来て、そのホテルに行くと、これまた風采の上がらない老人ジョージ・バーンズが現れて神だと名乗る。
今の世の中がひどいので、そのメッセージを伝えに来たといい、「お前がそれを伝えよ」という。デンバーは、新聞社に行き、神に会ったというが相手にされず、出た記事は「奇人変人」のニュース。
妻のテリー・ガーや子供たちも信じないが、テレビの『ダイナ・ショア・ショー』に出て、放映された日に家に戻ると、家の前が大騒ぎになっている。ハレ・クリシュナらしい踊り騒ぐ連中、子供を祝福してくれという妊婦、握手してくれという男、黄金の棒を入れてくれと迫る女性など。家に、神学連盟から招待状が来て、キリスト教、ユダヤ教、ギリシャ正教などの代表に審問され、質問のメッセージを渡される。
ホテルに缶詰めになって苦しむ彼に、神が現れ、50問を解いてくれ、さらにテレビ伝道師はインチキな金儲け師だと批難する。彼の大集会に来たデンバーは、伝道師と衝突し、彼は名誉棄損だと裁判に訴えられる。弁護士も付けず、デンバーは一人で戦い、最後証人として神が現れ、バーンズの言葉に皆唖然としてしまい、判事の結論は訴訟は却下されて、デンバーは勝つ。スーパーを首になった彼のところに、神が現れ、デンバーを励まして去る。
これは、喜劇だが、アメリカ人の本質をよく表していると思える。それはアメリカは極めてキリスト教的な国であり、宗教的な心性が国民にあることである。宗教は信じられないとしても、どこかで神があることを信じたいという気持ちである。我々には到底信じられないことだが、映画『ジュラシック・パーク』が公開された時、米国では「聖書には恐竜は出てこないのだから、この映画は嘘だ」という抗議があったというのだ。
かつてイギリスの学者R・D・レインは、「清教徒などの過激なピューリタンは、すでに神が信じられなくなっているからこそ、過激な信仰に走ったのだ」という趣旨のことを書いた。今回の大統領選でトランプが勝利したのも、全米にある宗教的信条ではないかと思われる。特に、今回支持が多かったというアメリカ中西部は、イギリスからではなく、ドイツ、ポーランドなどの中欧や東欧からの「遅れた移民」が行われた地域である。そこは、米国の東西の海岸の進んだ地域とは反対に、経済のグローバル化によって遅れてしまった工業、農業地帯である。途上国や東欧各国の自由化で、世界の生産力が飛躍的に増大したため、アメリカの遅れた産業が地位を失ったのは当然のことだった。
今回トランプに投票した人たちは、トランプの政策のすべてを信じてはいないだろうが、もしかしたら何とかして、アメリカの栄光を取り戻してくれるのではないかとの淡い期待があったのではないかと私は思うのである。