テレビで「四畳半忠臣蔵」を見る前、昨日の昼は国立劇場で、『仮名手本忠臣蔵』を見ていた。
松本幸四郎、坂東彦三郎、市川左団次、市川染五郎、中村福助らによる本物の忠臣蔵である。
だが、本当の忠臣蔵かと言えば、多少の疑問はあった。
今回の眼目の一つは、松本幸四郎が大星由良之助と高師直の二役を演じることである。
これは、言うまでもなく忠臣蔵の主役と悪役を同時に演じることで、極めて珍しい。
最近では、先代の尾上松禄が演じたくらいのようだ。
筋は、言うまでもなく、江戸城で起きた刃傷事件に対する赤穂浪士の討ち入りを基にした義太夫狂言である。
ここでは、三段目、四段目、道行、七段目、さらに十一段目が上演された。
近年、「忠臣蔵」は、次第に「赤穂浪士」化し、芥川也寸志のテレビでのテーマ音楽が聞こえるようになって来たが、やはりここでもそうだった。
プログラムで、坂東秀調が述べているが、「今様の」忠臣蔵である。本来歌舞伎は、その時代時代で変化し、作り変えられてきたので、それはそれで良い。要は、それで面白いか否かでである。
その最たるものは、やはり幸四郎で、この人は勿論うまいが、台詞が心理的、新劇的で、私は彼の歌舞伎を見ているといつも眠たくなる。
どうも歌舞伎的でないような気がする。
松本幸四郎は、結局岡本綺堂などの「新歌舞伎の演目」が一番あっているのではないか、と私は思う。この人は、やや悩んだような憂鬱な感じの演技が一番合っているように思う。
それに対し、歌舞伎的、人形的な演技を努めてしていたのが、息子の市川染五郎で、特に福助のお軽と勘平の道行の場は、極めて人形的だった。
彼は、大変「お行儀の良い」役者で、好感を持つが、こういうところ、あるいは劇団新感線の古田新太らと芝居をやって、偉大な父に「反抗」しているのだろうか。「なかなかやるな」という気がする。いずれにせよ、やや線は細いが、極めて折り目正しく、気持ちの良い役者である。
坂東彦三郎が、薬師寺次郎佐衛門で出ていた。
この人は、先代市村羽佐衛門の長男で、坂東亀三郎として大いに期待された若手の一人だったが、50代で脳梗塞で倒れ、半身不随になった。
だが、今回は多少左足を引きずってはいるが、元気に舞台を勤めているのは、今回見て一番嬉しいことだった。言うまでもなく口跡は大変良いので、倒れなければ、文句なしに市村羽佐衛門の大名跡を継げたのだろうが、体は仕方がない。
国立劇場