言うまでもなく都はるみのヒット曲にあやかって作られた歌謡映画だが、松竹メロドラマの出がらしのお茶のような作品だった。
脚本の小林久三によれば、急きょ升本喜年から「この曲でシナリオを書け」と厳命があり、彼が書いたそうだ。
だが、その時小林は、『アンコ椿は恋の花』知らなかったそうだ。
この辺が、松竹大船の知識志向なダメなところで、日活との差である。
大島の姉妹、香山美子と都はるみの話だが、失礼だが、この姉妹、ルックスが違いすぎやしないか。
香山美子は、吉永小百合そっくりの美人だが、都はるみを美人とは言えないだろう。
また、彼女は、芝居をするのは無理なので、筋は香山と、大島にきた東京のサラリーマン、と思ったら東芝府中の旋盤工竹脇無我との悲恋。
東芝府中は、中日の落合監督が選手時代にいた工場だが、ここで旋盤工はないだろう。
いくらなんでも電気会社に旋盤工がいただろうか。
戦前のプロレタリア文学では、労働者というと旋盤工だったが、このころの松竹はその程度のセンスだった。
大島と東京の遠距離恋愛の悲劇かと思うと、香山は父親西村晃の入院を機会に上京してしまい、その障壁もなくなる。
唯一の障害は、香山に横恋慕している島の旅館のドラ息子勝呂誉だけ。
仕方ないので、竹脇は、鬼の上司大辻司郎によって上田の工場に行かされる。
ここで、この凡作で唯一の価値、蔵悦子が下宿の娘として出てくる。
蔵悦子と言っても、誰も憶えていないだろうが、テレビの『バス通り裏』の人気スターの佐藤英夫のお嫁さんとして公募され、1位になって番組にも出て、やらせの結婚式をした女優である。
『バス通り裏』もほとんど画像が残っていない今日、蔵悦子の貴重な映像だろう。
スケジュールの性か、都はるみは、ほとんど出てこない。
大島で大火があり、その復興のコンサートに青山京子が出てきて『愛と死を見つめて』を歌うのにはびっくり。
その他、王貞治、桑野みゆき、海老原博幸、長門勇が特別出演なので、どうするのかと思うと、大島復興への寄付募るため、都はるみら大島の若者が有名人に色紙を書いてもらうシーンで出てくるのみ。
まことに、どこにもドラマのない、出がらしのお茶のようなメロドラマだった。
監督桜井秀雄、衛星劇場